1.1 若年性パーキンソン病の定義と疫学
若年性パーキンソン病(Young-onset Parkinson’s disease: YOPD)は、40歳未満で発症するパーキンソン病と定義されます。パーキンソン病全体の中では比較的稀な疾患です。しかし、働き盛りや子育て世代での発症となります。したがって、患者本人だけでなく家族や社会全体への影響も大きいと言えます。
また、YOPDの正確な有病率や発生率は、地域や調査方法によってばらつきがあります。一般的にはパーキンソン病全体の約5-10%を占めるとされています。
- 有病率:10万人あたり約4-10人
- 発生率:10万人あたり約0.5-1.5人
さらに、YOPDは30歳代での発症が最も多いです。次いで20歳代となります。10歳代での発症は非常に稀です。また、男女比はほぼ1:1で、特定の性別に偏りはありません。
1.2 若年性パーキンソン病の原因と病態生理
パーキンソン病は神経変性疾患です。脳内の黒質緻密部という部位におけるドーパミン神経細胞の変性と脱落が特徴です。ドーパミンは、運動調節に重要な役割を果たす神経伝達物質です。したがって、その減少はパーキンソン病の主要な症状である振戦、固縮、無動、姿勢反射障害などを引き起こします。
YOPDの原因は、大きく分けて遺伝性と孤発性に分類されます。
- 遺伝性YOPD:家族性パーキンソン病とも呼ばれます。特定の遺伝子変異が原因となります。これまでにPARK2、PARK7、PINK1、LRRK2など、複数の原因遺伝子が同定されています。
- 孤発性YOPD:遺伝的要因が明らかでない場合を指します。環境要因や遺伝的素因の複雑な相互作用が関与していると考えられています。しかし、詳細なメカニズムは未だ解明されていません。
YOPDの病態生理は、レヴィ小体の形成も重要な役割を果たしています。レヴィ小体はα-シヌクレインというタンパク質の異常凝集によって形成されます。レヴィ小体は神経細胞内に蓄積し、細胞機能を障害することで神経変性を促進すると考えられています。
1.3 若年性パーキンソン病の症状と診断
YOPDの症状は、高齢発症のパーキンソン病と基本的に同様です。しかし、若年層であるがゆえの特徴もいくつか見られます。
- 運動症状:振戦、固縮、無動、姿勢反射障害などが主な症状です。特に、YOPDでは初期には振戦が目立つことが多いです。また、ジストニア(筋肉の異常収縮)を合併することもあります。
- 非運動症状:便秘、睡眠障害、嗅覚障害、うつ病、不安障害などが挙げられます。特にYOPDでは、非運動症状が早期から出現し、生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあります。
YOPDの診断は、主に臨床症状に基づいて行われます。問診、神経学的診察、画像検査(MRI、DATスキャンなど)、薬剤反応などを総合的に評価し、他の疾患との鑑別を行います。特に、YOPDは他の神経疾患や薬剤性パーキンソニズムとの鑑別が重要です。
診断基準
- 40歳未満での発症
- 少なくとも2つ以上の主要運動症状(振戦、固縮、無動、姿勢反射障害)の存在
- 他の疾患や薬剤によるパーキンソニズムを除外
鑑別診断
- 本態性振戦
- 薬剤性パーキンソニズム
- Wilson病
- 多系統萎縮症
- 進行性核上性麻痺
1.4 若年性パーキンソン病の治療と予後
YOPDの治療は、高齢発症のパーキンソン病と同様です。したがって、薬物療法、外科療法、リハビリテーションなどを組み合わせて行われます。
- 薬物療法:
- レボドパ製剤:ドーパミン前駆物質であり、最も効果的な治療薬です。長期投与による運動合併症(wearing-off現象、ジスキネジアなど)が出現することがあります。
- ドーパミンアゴニスト:ドーパミン受容体を刺激する薬剤です。レボドパ製剤の補助薬として、あるいは単独で使用されます。
- MAO-B阻害薬、COMT阻害薬:ドーパミンの分解を抑制する薬剤です。レボドパ製剤の効果持続時間を延長する目的で使用されます。
- 抗コリン薬:振戦の軽減に効果があります。
- 外科療法:
- 深部脳刺激療法(DBS):脳の特定部位に電極を埋め込み、電気刺激を与えることで症状を改善する治療法です。薬物療法で効果が不十分な場合や運動合併症が出現した場合に検討されます。
- リハビリテーション:
- 理学療法、作業療法、言語療法など、運動機能や日常生活動作の維持・改善を目的としたリハビリテーションが行われます。
また、YOPDの予後は、高齢発症のパーキンソン病と比較して一般的に良好とされています。しかし、長期的な経過については未だ不明な点がおおいです。したがって、今後の研究が待たれます。
予後因子
- 発症年齢:若年発症ほど予後が良い傾向があります。
- 遺伝子型:PARK2変異など、一部の遺伝子型では予後が良いとされています。
- 治療反応性:薬物療法や外科療法への反応が良いほど予後が良い傾向があります。
- 合併症の有無:認知機能障害や精神症状などを合併すると予後が悪くなる可能性があります。
1.5 まとめ
第一章では、若年性パーキンソン病の基礎知識として、定義と疫学、原因と病態生理、症状と診断、治療と予後について解説しました。
YOPDは、若い世代に発症するパーキンソン病です。したがって、患者本人だけでなく家族や社会全体への影響も大きい疾患です。
また、YOPDの原因は、遺伝性と孤発性に分類され、それぞれ異なるメカニズムが関与していると考えられています。症状は高齢発症のパーキンソン病と基本的に同様です。しかし、若年層であるがゆえの特徴もいくつか見られます。診断は主に臨床症状に基づいて行われます。特に他の疾患との鑑別が重要となります。
治療は、薬物療法、外科療法、リハビリテーションなどを組み合わせて行われます。YOPDの予後は、高齢発症のパーキンソン病と比較して一般的に良好とされています。しかし、長期的な経過については未だ不明な点が多くあります。したがって、今後の研究が待たれます。
1.6 引用文献
- Schrag A, Schott JM. Young-onset Parkinson’s disease revisited. Lancet Neurol. 2006 Apr;5(4):355-63.
- Kalia LV, Lang AE. Parkinson’s disease. Lancet. 2015 Aug 22;386(9996):896-912.
- 若年性パーキンソン病診療ガイドライン. 日本神経学会. 2019.