クローン病の治療は、病気の活動性、重症度、病変の場所、合併症の有無、患者さんの年齢や生活状況などを考慮して、個別化することが重要です。薬物療法、手術療法、食事療法、補完代替療法など、様々な治療選択肢があり、それらを組み合わせて最適な治療戦略を立てる必要があります。
5.1 薬物療法
薬物療法は、クローン病の治療の中心となります。炎症を抑え、症状を緩和し、寛解を維持することを目的として、様々な薬剤が使用されます。
- 5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA): 軽度から中等度のクローン病に対して、第一選択薬として用いられます。腸管の炎症を抑える効果があり、再燃予防にも有効です。
- ステロイド: 炎症を抑える強力な効果がありますが、長期使用による副作用があるため、急性増悪時や他の薬剤で効果不十分な場合に限定的に使用されます。
- 免疫調節薬: 免疫系の働きを抑えることで、腸管炎症を抑制します。アザチオプリン、メトトレキサート、6-メルカプトプリンなどが使用されます。
- 生物学的製剤: 特定の炎症性物質の働きを阻害する薬剤です。インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴル、ウステキヌマブなどが使用されます。
- JAK阻害薬: ヤヌスキナーゼ(JAK)と呼ばれる酵素の働きを阻害することで、炎症性サイトカインの産生を抑えます。トファシチニブなどが使用されます。
- 抗菌薬: 腸内細菌の異常増殖や感染を抑制するために使用されることがあります。メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどが使用されます。
- その他: 下痢止め、鎮痛薬、栄養剤なども、症状に応じて使用されます。
5.2 手術療法
薬物療法で効果不十分な場合や、腸閉塞、腸穿孔、膿瘍、瘻孔、大量出血などの合併症が生じた場合には、手術療法が必要となることがあります。手術の目的は、病変の切除、狭窄の解除、瘻孔の閉鎖、合併症の治療などです。
- 腸管切除術: 病変のある腸管を切除し、健康な腸管を繋ぎ合わせます。
- 狭窄拡張術: 狭窄した腸管を広げる手術です。バルーン拡張術やストリクトプラスティなどが行われます。
- 瘻孔閉鎖術: 瘻孔を切除し、周囲の組織を縫合して閉鎖します。
- ストーマ造設術: 肛門周囲の病変が重度な場合や、腸管切除後に腸管の吻合が困難な場合には、一時的または永久的にストーマ(人工肛門)を造設することがあります。
5.3 食事療法
食事療法は、クローン病の症状を緩和し、栄養状態を改善するために重要です。食事内容や摂取方法は、病気の活動性や症状、個人の嗜好などを考慮して、医師や栄養士と相談しながら決める必要があります。
- 低残渣食: 繊維質の少ない食事を摂取することで、腸管への負担を軽減し、下痢や腹痛を緩和します。
- 高エネルギー・高タンパク食: 体重減少や栄養状態の悪化を防ぐために、エネルギーやタンパク質を十分に摂取します。
- 特定の食品の制限: 症状を悪化させる可能性のある食品(脂肪分の多い食品、刺激物、アルコールなど)を制限することがあります。
- 経腸栄養: 経口摂取が困難な場合や、腸管への負担を軽減したい場合には、経腸栄養剤を用いた栄養療法が行われることがあります。
5.4 補完代替療法
薬物療法や手術療法に加えて、補完代替療法がクローン病の治療に役立つ可能性があります。ただし、科学的根拠が確立されていないものも多く、医師と相談しながら慎重に選択する必要があります。
- プロバイオティクス: 腸内細菌叢のバランスを整えることで、腸管炎症を抑制する効果が期待されています。
- 鍼灸: 痛みやストレスを緩和する効果が期待されています。
- ヨガや瞑想: ストレスを軽減し、心身のリラックスをもたらす効果が期待されています。
5.5 治療の目標と個別化
クローン病の治療目標は、症状のコントロール、寛解の維持、合併症の予防、QOLの向上です。治療法は、病気の活動性、重症度、病変の場所、合併症の有無、患者さんの年齢や生活状況などを考慮して、個別化することが重要です。
医師とよく相談し、それぞれの治療法のメリットとデメリット、副作用などを理解した上で、患者さんにとって最適な治療法を選択しましょう。
本章のまとめ
第5章では、クローン病の治療について解説しました。薬物療法、手術療法、食事療法、補完代替療法など、様々な治療選択肢とその効果、副作用、治療の目標と個別化について説明しました。クローン病の治療は、患者さん一人ひとりに合わせて最適な治療戦略を立てることが重要です。
この章で学んだ重要ポイント
- クローン病の治療は、薬物療法、手術療法、食事療法、補完代替療法などを組み合わせる
- 治療目標は、症状のコントロール、寛解の維持、合併症の予防、QOLの向上
- 治療法は、病気の活動性、重症度、病変の場所、合併症の有無、患者さんの年齢や生活状況などを考慮して、個別化することが重要
- 医師とよく相談し、患者さんにとって最適な治療法を選択する