第2章 原因と病態生理

2.1 遺伝的要因

クローン病の発症には、遺伝的要因が強く関与していることが知られています。クローン病患者の一親等血縁者(両親、兄弟姉妹、子供)における発症率は、一般人口に比べて約30倍高くなっています。また、双生児研究においても、一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも高い発症一致率を示すことから、遺伝の影響が大きいことが示唆されています。

近年、ゲノムワイド関連解析(GWAS)などの遺伝子研究が進み、クローン病に関連する複数の遺伝子座が同定されています。これらの遺伝子は、免疫応答、腸管バリア機能、オートファジーなどの様々な生理機能に関与しており、クローン病の発症メカニズムに複雑に影響を与えていると考えられています。

2.2 環境要因

遺伝的素因に加えて、環境要因もクローン病の発症に重要な役割を果たしています。特に、食生活の欧米化、衛生環境の改善、喫煙、ストレス、特定の薬剤などが、クローン病の発症リスクを高める可能性が指摘されています。

食生活の欧米化に伴う、高脂肪食、低繊維食、動物性タンパク質の過剰摂取は、腸内細菌叢のバランスを崩し、腸管炎症を誘発する可能性があります。また、衛生環境の改善により、幼少期における微生物への曝露が減少することで、免疫系の発達が不十分になり、自己免疫疾患の発症リスクが高まる可能性も指摘されています。

2.3 免疫学的異常

クローン病は、免疫系の過剰な反応が腸管炎症を引き起こす自己免疫疾患の一種と考えられています。腸管粘膜には、病原体や異物から体を守るための免疫細胞が集まっていますが、クローン病患者では、これらの免疫細胞が過剰に活性化し、正常な腸管組織を攻撃してしまうと考えられています。

Th1細胞、Th17細胞などのヘルパーT細胞が、炎症性サイトカインを産生し、腸管炎症を促進する役割を果たしています。また、制御性T細胞(Treg)の機能低下も、免疫応答の過剰な活性化に寄与している可能性があります。

2.4 腸内細菌叢の役割

腸内細菌叢は、消化、栄養吸収、免疫調節など、様々な生理機能に関与しています。クローン病患者では、腸内細菌叢のバランスが崩れ、特定の細菌が増加したり減少したりすることが報告されています。

腸内細菌叢の乱れは、腸管バリア機能の低下、免疫系の異常活性化、腸管炎症の促進など、様々なメカニズムを通じてクローン病の発症に関与していると考えられています。近年、プロバイオティクスやプレバイオティクスなどの腸内細菌叢を調節する治療法が注目されています。

本章のまとめ

第2章では、クローン病の原因と病態生理について解説しました。遺伝的要因、環境要因、免疫学的異常、腸内細菌叢の乱れなどが複雑に絡み合い、腸管炎症を引き起こすメカニズムを説明しました。クローン病の発症には、複数の要因が関与しており、そのメカニズムは未だ完全には解明されていません。

この章で学んだ重要ポイント

  • クローン病の発症には、遺伝的要因が強く関与している
  • 環境要因も発症リスクを高める可能性がある
  • 免疫系の過剰な反応が腸管炎症を引き起こす
  • 腸内細菌叢の乱れも発症に関与している

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