1.1 定義と概要
クローン病は、原因不明の慢性炎症性腸疾患(IBD)の一つであり、口から肛門までのあらゆる消化管に炎症を引き起こす可能性があります。この炎症は、腸壁の全層に及び、潰瘍、狭窄、瘻孔などの病変を形成します。クローン病は、腹痛、下痢、血便、体重減少、発熱などの多様な症状を引き起こし、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させることがあります。
クローン病は、寛解と再燃を繰り返す慢性疾患であり、長期にわたる治療と管理が必要です。適切な治療により、症状をコントロールし、合併症を予防することで、患者は通常の社会生活を送ることが可能となります。しかし、クローン病は完治が難しく、再燃の可能性があるため、継続的な医療サポートと自己管理が重要となります。
1.2 疫学と有病率
クローン病は、世界的に増加傾向にあり、特に先進国において有病率が高くなっています。日本では、10万人あたり約40人がクローン病と診断されており、患者数は増加の一途をたどっています。発症年齢は10代後半から30代前半にピークがあり、若年層に多く見られます。男女比はほぼ等しく、特定の性別との関連は認められていません。
クローン病の正確な発症原因は解明されていませんが、遺伝的要因、環境要因、免疫学的異常、腸内細菌叢の乱れなどが複雑に絡み合っていると考えられています。近年、食生活の欧米化、衛生環境の改善、ストレスの増加などが、クローン病の発症リスクを高めている可能性が指摘されています。
1.3 歴史的背景
クローン病は、1932年にアメリカの医師Burrill B. Crohnらによって初めて報告されました。当初は、結核性腸炎との鑑別が難しく、その病態は長らく不明のままでした。その後、内視鏡検査や画像診断技術の発展により、クローン病の特徴的な病変が明らかになり、診断精度が向上しました。
治療法も、当初は手術療法が中心でしたが、薬物療法の発展により、手術を回避できるケースが増えています。近年では、生物学的製剤や分子標的薬などの新しい治療薬が登場し、治療選択肢が広がっています。しかし、クローン病は依然として完治が難しい病気であり、新たな治療法の開発が求められています。
本章のまとめ
第1章では、クローン病の定義、概要、疫学、歴史的背景について解説しました。クローン病は、消化管に炎症を引き起こす慢性疾患であり、様々な症状や合併症を伴います。正確な発症原因は不明ですが、複数の要因が関与していると考えられています。治療法は進歩していますが、完治は難しく、継続的な管理が必要です。
この章で学んだ重要ポイント
- クローン病は慢性炎症性腸疾患の一つであり、消化管に炎症を引き起こす
- 世界的に増加傾向にあり、特に先進国で有病率が高い
- 若年層に多く、男女比はほぼ等しい
- 正確な発症原因は不明だが、複数の要因が関与している
- 治療法は進歩しているが、完治は難しく、継続的な管理が必要