脳深部刺激療法(DBS)体験記 手術篇 その6

この投稿では手術中に電気刺激のための電極を挿入する様子を報告しています。

破壊効果

(その5からの続き) 意識が戻ってからすぐに、主治医のT先生に「右手を動かしてもらえますか」と言われました。まだ頭蓋骨の穴は空いたままでした。おっかなびっくりで、試しにそっと動かしてみました。そうしたら、まだ何もしていないにもかかわらず、普通に動きました。同じように右足も動かしてみました。こちらも問題なく動きます。私は大喜びで色々試してみました。驚いたことに、かなり複雑な動きでも問題なくスムーズにできます。

これは私にとっては大変な衝撃でした。手術の前夜から薬は一切飲んでいなかったので、尚更でした。私は「パーキンソン病なんてなかったんや!」と大興奮でした。頭に穴さえ開いていなかったら踊り出しかねないような気分でした。

後から知ったのですが、この脳深部刺激の手術には一定の「破壊効果」がある、ということでした。この手術では、問題になっている部位が電極の挿入で損傷します。このことにより一時的に症状が改善されるのです。私は以前、医療技術がそれほど発達していなかった頃に、脳の病気を治療するための最終手段として脳の一部を切除する「ロボトミー」という手術が行われていたことを思い出し、この脳深部刺激の技術が完成するまでにどれだけの犠牲が必要だったのか、と思うとちょっと申し訳ない気分になりました。

局所麻酔

電極の構造を示すイラスト
電極の構造を示すイラスト。一本の棒に4個の電極がついているのがわかる。実際にはこの電極の一個一個がさらに3個の電極に分かれている。

右手と右足がちゃんと動いたのでもう私は手術は半分ぐらい終わったぐらいの気持ちでいたのですが、この後で延々と電極の調整が続きました。誰かが「じゃあ27いきます」と言うと、その後に数字の組み合わせが読み上げられ、その度にT先生が私の体がどのように反応しているか調べる、という作業が繰り返されました。

大体電極は脳の表面から30mmのところに挿入される、と言うことは手術前の説明で聞いていました。このことから、この数字が電極の深さであることはすぐにわかりました。どうも0.5mm刻みでだんだん電極を深くしていって、体の反応を見ているようです。私はこの技術について色々考えるのが面白くなってきて、先生達を質問攻めにしてだいぶ困らせてしまいました。

電極が深すぎて歪む視界

手術自体はかなり長い間なんの問題もなく進行していきましたが、確か29mm当たりで先生達が作業に入った途端に視界がまた前のように急に真っ赤になって、右腕の筋肉が急に物凄い力で収縮してしまい、腕があり得ない方向に曲がり始めたのには本当に驚きました。先生達に「これは無理です!」と必死で伝えました。すぐにもとに戻してもらえたので、事なきを得ました。しかし、私はこの技術がいかに緻密で繊細なものか、ということを改めて思い知らされました。「ここで私が手を抜いていい加減な報告をすると、一生後悔しかねないな」とさえ思いました。随分と空恐ろしくなったのを覚えています。

左脳と右脳の電極

さて、左脳の作業が終わるとすぐに先生方は右脳の作業に取り掛かりました。こちらのほうは左脳ほどは時間がかかりませんでした。印象的だったのは、T先生が「はい、もう黙っててくださいね〜」といっていたことです。電極の埋め込みが終わって全身麻酔に移行するときのことでした。私は「T先生、相当私の質問にうんざりしてたんだろうな」などと可笑しく思いました。そんなことを考えながら、私はゆっくりと意識を失いました。(その7に続く)

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